日本語の一般的な送り仮名の原則は、国により「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)に定められています。
公用文の送り仮名についても、平成22年11月30日付け内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」により、上記「送り仮名の付け方」の一部を除外しつつも、これに準拠することとされています。
パソコン等で文書を作成する現代においては、送り仮名の付け方には十分注意する必要があります。
なぜなら、パソコン等の辞書ファイルは万人向けに作成されていて、その全てが公用文における送り仮名の基準に従っているわけではないからです。
上記の「送り仮名の付け方」には通則1から通則7まであり、それぞれ「本則」「例外」「許容」からなっています。
このうち、公用文では、「許容」は基本的に適用しませんが、以下の表のとおり「通則6の許容」だけは唯一適用しています。
本則 | 例外 | 許容 | |||
---|---|---|---|---|---|
単独語 |
活用のある語 | 通則1 | ○ | ○ | × |
通則2 | ○ | ー | × | ||
活用のない語
|
通則3 | ○ | ○ | ー | |
通則4 | ○ | ○ | × | ||
通則5 | ○ | ○ | ー | ||
複合語 | 通則6 | ○ | ー | ○ | |
通則7 | ○ | ー | ー |
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実務的に間違えやすい語句の例を挙げると、「取り替え、取替え」はどっちを使えばいいのかといった問題があります。
これについて、複合動詞は通則6「本則」によると、「複合の語の送り仮名は、その複合の語を書き表す漢字の、それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。」とされています。
通則6の「本則」の例
(1)活用のある語(動詞形)
書き抜く 流れ込む 申し込む
(2)活用のない語(名詞形)
行き帰り 伸び縮み 乗り降り
そして通則6「許容」として「読み間違えるおそれのない場合は、次の( )の中に示すように、送り仮名を省くことができる。」とされています。
通則6の「許容」の例 ※()内が許容
書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打合わせる・打合せる)
このように通則6を全部読むと、「とりかえ」については、「取り替え」が本則、「取替え」が許容、という扱いになっているため、一般的な文章においては、どちらも正しいという判断ができます。
ただし、公用文においてはどちらでもよいという訳にはいかず、上記の「公用文における漢字使用等について」で通則6は「許容」を適用することが記されています。
そうすると、「とりかえ」が活用のある語(動詞形)なのか、活用のない語(名詞形)なのかがポイントになります。
動詞形なら「取り替え」が正しく、名詞形なら「取替え」が正しいということになるからです。
そのため、公用文では以下の例のように、用法によって送り仮名が変わることになります。
サイズが合わなかったので、別の商品に取り替えてもらった。(動詞形)
故障した部品を新しいものに取り替える必要がある。(動詞形)
古い電球をLEDライトに取り替えた。(動詞形)
商品発送後の取替えは、原則として承っておりません。(名詞形)
製品の初期不良に限り、無料で取替え対応を行います。(名詞形)
ご購入後のサイズ違いによる取替えはご遠慮いただいております。(名詞形)
ただし、以下の語句は通則7で列挙されているため、送り仮名を全て省くことに注意します。
取替品
ちなみに、その語句が名詞形かどうかの判断については、その語句が「主語、述語になれる」というのが一番分かりやすい判断ポイントです。
もし判断に迷った場合は、以下の5点が名詞形かどうかの判断材料になります。
【名詞の特長】
① 「は」「が」「も」などの助詞をともなって、主語になれる。
② 「だ」「です」などの助動詞や、「か」などの助詞をともなって、述語になれる。
③ 独立語になれる。
④ 「に」「を」「へ」「と」「で」「から」「より」などの助詞をともなって、連用修飾語になれる。
⑤ 「の」「に」「を」などの助詞をともなって、連体修飾語になれる。
このように、「複合語の送り仮名は、動詞形は省かず、名詞形は省く」という原則を覚えておきましょう。
「取り替え」と「取り替え」は意味自体はほぼ同じで、辞書でも「取り替える、取り換える」は同じ項目にまとめられ、「他の物と入れかえる。取り替える」と定義されています。
つまり、日常的な理解では大きな違いはありません。
ただし、表記(使われている漢字)が違うために生じるニュアンスや印象の違いはあります。
公文書など正式な文書では一般的に「取り替え」のほうが用いられる傾向があります。迷った場合は「取り替え」と書いておけば間違いはありません。
日本語の漢字表記では「~替える」と「~換える」で意味合いを使い分ける場合があり、公用文の作成基準でも次のように説明されています。
「替える」・・・前の物事をやめて別の新しいものにする場合に用いる。例えば「古いものを新しいものに替える」といった場合です。言い換えれば、新しい代わりのものに置き換えるニュアンスになります
「換える」・・・ある物と別の物を交換(入れ換え)する場合に用いる。AとBを取り交わすような場面で使われ、同種の別のものと入れ換えるというニュアンスになります。
この違いを「取り替え」と「取り換え」に当てはめると、「取り替え」は今あるものを別の新しいものに差し替える(交換というより新しいものに取り替える)意味合いが強く、逆に「取り換え」は今あるものと同程度のものに差し換える(同種のものと入れ換える)意味合いが強いと言えます。
ただし、このニュアンスの差異は微妙で文脈次第です。
読む人によっては「取り替え」と「取り換え」の違いが分かりにくいこともあります。
そのため、文章の中では無理に使い分けず、一般的な「取り替え」に統一するほうが読み手に親切な場合が多いです。
結論:公文書・正式文書では「取り替え」が一般的
行政文書や法律文書、ビジネス文書など正式な場面では「取り替え」の表記がより適切とされています。
理由は上記のように「取り替え」のほうが一般的で誤解を生みにくいからです。
公用文作成のガイドラインでも、同じ意味の語は表記を統一するよう求めています(例えば、「○人」と「○名」なら「○人」に統一する等)。
同様に「さしかえる」という言葉も、公文書では表記揺れを避けて「取り替え」に統一するのが普通です。
実際、官公庁や自治体の文章を見ても「取り換え」より「取り替え」が使われている例がほとんどです。
その他、特に送り仮名を間違いやすい語は次のとおりなので、使用する際は注意が必要です。
(送り仮名を間違えやすい語の例)
当たって(×当って) 危ない(×危い)
承る(×承わる) 行う(×行なう)
打合せ(×打合わせ ×打ち合わせ)
押さえる(×押える) 終わり(×終り)
来る(×来たる) 仕組み(×仕組)
速やか(×速か) 損なう(×損う)
問合せ(×問い合わせ ×問合わせ)
伴う(×伴なう) 懐かしい(×懐しい)
申合せ(×申合) 申立て(×申し立て)
申出(申し出) 届出(×届け出)
○月○日付け(×付)
※「付け」はルール上、「日付」を除いて送り仮名は省略できませんが、一般には、辞令書等の特殊な用途で省略する慣例がある場合もあります。 「期限付」という使い方や、「条件付採用」という後ろに語句が続くときは送り仮名を省略します。
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