起案とは|公務員の原義書の書き方、起案日をいつにするか など

起案とは|公務員の原義書の書き方、起案日をいつにするか など

起案とは|公務員の原義書の書き方、起案日をいつにするか など

 

 

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起案とは

起案とは、自治体の事務事業を遂行するうえで必要とされる意思決定の内容を文書の形式にまとめ上げる事務、つまり決定案を作成することをいいます。
そして、決定案を記載した文書を起案文書といいます。

 

起案の契機には、収受文書に基づく場合と、収受文書に基づかず、自らの発意による場合とがあります。
収受文書に基づいて作成された起案文書を「収受起案文書」、自らの発意に基づいて作成された起案文書を「発意起案文書」といいます。

 

原義とは

各自治体で採用されている決定書方式(「決定書方式」の詳細は公務員の起案についてを参照)により、決定権者まで決裁が完了した起案文書ことを「原義」または「原議書」いいます。

 

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起案の意義

起案を行うのは、組織における意思決定の記録を明確な共通のルールで残すことにより、事務事業の効率性、円滑性を保つとともに、住民等への対外的な説明責任を果たすためです。
すなわち、対外的な説明責任を果たすためには、自治体としての事務を行うに当たり、誰の責任でどのようなことを決定したのかを客観的に示す必要があるからです。

 

また、起案を文書により行うのは、対住民への説明責任を果たすとともに、自治体の行った行為について訴訟等で争いになったときに、その行為の真偽や存否についての証拠とするためです。

 

そしてこの機能を果たすためには、意思決定の内容だけではなく、その形式が適法、つまりルールに従ったものである必要があります。
なぜなら、民事訴訟法第228条においては、公務員が決められた方式で作成した文書は真正であると推定されるからです。 (「文書の真正性」の詳細は公文書に認められる真正性とは?を参照)

 

たとえ自治体の内部で了解が取れている事項でも、起案文書という形式で正式に残す必要があるのはこのためです。
起案は、内部的に上位者の承認を得るためだけに行っているのではありません。

 

起案の権限

本来、決定書方式においては、起案(決定案の作成)は、決定権者が自己の指揮監督する職員に必要な指示を与えて行いますが、決定権者自身が行うこともできます。
「起案者」とは、起案すなわち決定案の作成者をいいます。
しかし、すべての案件について決定権者が起案者に指示を出すことは現実的には困難です。

 

なので、自治体では事案についての起案権は事務を所掌する係に所属する職員(係長級の職員を含みます。)が持ちます。
ただし、重要な起案については、あらかじめ当該係の長に指示を仰がなければならないとしています。
自分の属する組織が所掌するとされている事務以外については、起案を行うことはできません。

 

同時に意思決定できる範囲

意思決定を行う場合、同じ事業に関する一連の決定を、一つの起案文書としてまとめることができます。
一つの起案文書としてまとめることができるのは、起案権が属する組織及び決定権者を同じくする、一まとまりの決定事項です。
決定権者が異なる場合又は複数の組織の所掌事務にまたがる場合には、一つの起案文書で意思決定を行うことはできません。

 

例えば、市長決裁の起案の回議ルートの中に部長を承認者として加えても、部長専決事案を合わせて決定することはできません。
なぜなら、決定権の異なる複数の事案を一つの起案文書により決定で作成したのでは、責任の所在が不明確になるとともに、起案を行うことができるのは、その事務を所掌する組織の職員だけだからです。

 

また、たとえ起案者、決定者が同一であるとしても、異なる複数の事案を一つの起案文書にまとめることはできません。
なぜなら、このようにした場合、分類・フォルダや保存期間などを適切に設定することが難しくなり、行政文書管理の面から問題があるだけでなく、情報公開条例上の行政文書開示請求への対応が適切に行えなくなるからです。

 

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起案の方式(電子起案方式と書面起案方式)

起案は原則として文書管理システム等に起案内容を記録する方式(以下「電子起案方式」といいます。)により行います。
ただし、統括文書管理責任者が事務処理の効率化の観点から合理的であると認めるときは、文書管理システム等に入力した内容を起案用紙に出力し、署名又は押印する方式(以下「書面起案方式」といいます。)により行うことができます。
書面起案方式がどのような場合に認められるのか、またその手続については後述します。

 

電子起案方式

自治体における意思決定は原則としてこの方法です。
起案者が事案の内容その他所要事項を文書管理システム等に入力し、電子的に回議を行います。

 

すべて電子化できる場合

電子文書を添付して回議を行い、決定関与者は起案文書の内容を電磁的に表示して承認・決定を行います。

 

電子化できない文書がある場合

紙で収受した文書があるなど、電子化できない文書がある場合であっても、意思決定の記録を一元的に管理するため、電子起案方式により、次の方法で起案・決定を行います。
① 上記と同様に起案に必要事項をシステムに登録し、電子化できない添付文書については目録情報のみを登録し、起案用紙を出力します(決裁方法は「電子決裁」です。)。
② 添付する紙文書に起案用紙を付け、対象者に回議します。
③ 承認・決裁の対象者は、文書の内容確認は紙文書を見て行いますが、承認・決定結果の記録は、押印ではなく、文書管理システム等に登録します。

 

※紙文書を添付して電子決裁を行う場合の注意点

電子決裁は、起案内容をパソコンで見ることを目的に行っているのではありません。
「意思決定の記録を一元的に正確に管理し、決定後の電子文書を原本として管理する」ために行っているのです。
たとえ文書の内容を紙の添付文書で確認するとしてもそれは同じことです。
紙の添付文書を見ながら電子決裁を行うことは、「二重に決裁を行う」のではありません。
文書はあくまで文書管理システム等で電子決裁を行った時点で承認・決定されたものであり、承認・決定を行ううえで紙の添付文書を参照しているだけです。
この場合、紙の添付文書に押印をしても、全く効力は発生しません。意思決定はあくまで文書管理システム等に承認・決定の記録を残すことで行います。
紙の添付文書に押印やチェックをする行為は、あくまで添付文書がどこまで回議されたのか分かりやすくするために行っているだけのことであり、正式な「承認・決定」ではありません。
したがって、紙の添付文書に印をもらってから、後からまとめて文書管理システム等に登録を行うような行為は、意思決定として全く意味をなしません。

 

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説明が必要な場合

承認・決定者に対する説明が必要な重要な事案については、起案者はその内容を説明することができます。
ただし、この場合でも起案の方法は電子起案方式です。
文書管理システム等により承認・決定を行う目的は、前述のとおり意思決定の記録を一元的に管理するためです。
電子起案方式で意思決定を行うことは、説明を行うことに関して何ら妨げにはなりません。
説明が必要であるということは、紙による決裁を行う理由にはなりません。

 

書面起案方式

原則は電子起案方式ですが、統括文書管理責任者が事務処理の効率化の観点から合理的であると認めるときは、書面起案方式により行うことができます。

 

書面起案方式が認められる場合

書面起案方式が認められるのは、特別な事情がある場合です。
例えば、決定関与者の中に全庁LANの利用ができない者(議会議長等)が含まれている場合は、これに当たります。
また、後述する「特例起案帳票」により起案する場合も、これに当たります。

 

それ以外の場合には、統括文書管理責任者に対する協議が必要です。
事務処理の効率化の観点から書面起案方式により決定する必要がある場合には、統括文書管理責任者に対して、書面により協議を行います。
協議に際しては、次の事項を記入するものとします。

① 書面起案方式を行う必要がある業務
② 電子起案方式によることができない理由

特例の処理を認めるのはあくまで特定の業務に対してであり、特定の組織の文書をすべて書面起案方式で行うようなことは認められません。

 

書面起案方式における起案方法

書面起案方式は、文書管理システム等に必要事項を入力し、起案用紙を打ち出し、紙による回議を行う方式です。
決裁関与者は、起案用紙に署名又は押印することにより、承認・決定を行います。
紙による決裁を行ったときは、その結果を文書管理システム等に登録する必要があります。
起案者は、承認・決定後に、文書管理システム等の決定結果登録機能により、決定結果の登録を行います。

 

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特例起案帳票による方式

書面起案方式の中でも、定例的に取り扱う事案に係る起案で、統括文書管理責任者が特に認めたものは、起案用紙と異なる用紙(以下「特例起案帳票」といいます。)を用いることができます。
その場合の文書登録の方法については、下記のとおりです。

 

特例起案帳票とは

特例起案帳票とは、規定により様式が決まっている場合等、文書管理システム等で出力される起案用紙以外の決まった様式で起案を行う場合の帳票です。
次のものがこれに該当します。

① 規則・要綱等何らかの明文の規定により様式が定まっている場合
② 文書管理システム等以外の業務システムにより、決裁欄のある起案帳票が出力される場合。

 

上記の場合には、特例起案帳票として処理することができます。
それ以外の場合で、特定の様式を使用することにより書面起案方式による起案を行う必要がある場合には、上記(2)アにより、統括文書管理責任者に協議を行います。

 

特例起案帳票による場合の文書登録の方法

特例起案帳票の場合、文書1件ごとに文書管理システム等に登録を行う必要はありませんが、実物の所在管理を行うため、文書管理システム等にはフォルダ単位で管理を行う必要があります。
事業によって、何らかの文書番号を管理する必要がある場合には、文書管理システム等外で台帳等を作成し、番号を管理します。

 

起案文書によらない決定

事案の決定は、起案文書により行うのが原則ですが、緊急の取扱いを要する事案又は極めて軽易な事案については、起案文書によらないで事案の決定をすることができます。

 

緊急の取扱いを要する事案

起案文書による決定を行う時間のない、緊急の取扱いを要する事案については、起案文書によらず、口頭やその他適切な方法により決定を行うことができます。
ただし、この場合には、後から起案文書を作成し、正規の決定の手続を行わなければなりません。

 

極めて軽易な事案

「極めて軽易な事案」とは、その決定に関する責任の所在が後から問題になったり、その決定内容の詳細に疑義が生じたりする可能性がきわめて低い、軽微な事案を指します。
例えば、ある事業の実施に関して、その実施に関する主な事項についてはすでに起案文書により決定をしている場合で、更に詳細な作業レベルの判断を行う場合などがこれに当たります。
このような事案に関しては、口頭やその他適切な方法により、決定を行うことができます。

 

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起案日はいつにするか

「起案日」とは、意思決定の案を作成した日のことであり、本来はその起案文書を回議に付した日になります。
ただし、次に示すような特別な事情がある場合に限り、過去の日付等を表示して起案文書を作成することができます。

 

過去の日付による起案文書の作成

緊急の場合等において、意思決定と同時に行政文書を作成することが困難であるときには、口頭で意思決定を行い、後から起案文書を作成することができます。
ただし、その場合には、後から正規の手続により起案・決定を行わなければなりません。
この場合において、実際の意思決定よりも後に文書を作成するときは、口頭等による意思決定を行った日付(過去の日付)を起案日として、口頭で意思決定済みである旨を明記し、起案文書を作成することができます。

 

未来の日付による起案文書の作成

年度末・年度始めにおいて、新年度にならないと起案ができない事案で、新年度になってから起案したのでは間に合わない場合など、特別な事情がある場合には、旧年度中に、未来の日付での起案文書を準備しておくことができます。
未来の日付で起案文書を作成する場合は、あくまで起案の「予定」を入れたにすぎません。
起案日になって初めてその起案は効力を生じます。

 

また、その起案について決定をする場合は、決定日は起案日より後でなければなりません。
決定日に未来の日付を表示して決定をする場合には、それは意思決定の「予定」を入れたにすぎません。
実際の決定日になって初めて意思決定の効力が発生します。

 

年度をまたぐ決定

次年度の事業に係る決定を現年度に行う場合であっても、その文書は現年度の起案として作成することができます。
必ずしも事業が行われる年度や施行を行う年度に属する日付で起案する必要はありません。
ただし、支出決定原議等、その年度の予算が配当されなければ起案することができないような文書については、予算が配当された後の日付で起案する必要があります。
文書の属する年度については、文書番号とはの「文書の属する年度」を参照してください。
また、財務会計事務に係る意思決定については、後述する「支出に係る意思決定」を参照してください。

 

起案の内容

起案文書には、起案の理由及び事案の経過を明らかにする必要があります。
また、必要に応じて、起案の理由及び事案の経過等を明らかにする資料を添えることも必要です。
起案の内容、添付文書の内容等については、起案文書の内容と具体的な書き方を参照してください。
また、公用文の書き方における文体、用語などの形式及び入力項目の注意点については、公文書の書き方まとめを参照してください。

 

起案の効率化のためにすべきこと

文書管理システム等により作成された起案文書は、検索して再利用することができます。
また、頻繁に利用する形式については、テンプレート(ひな形)として登録しておくこともできます。
一度使用した起案文書を利用することにより、入力の手間を減らし、間違いを減らすことができます。
ただし、どういう理由でそういう設定にしているのかよく考えずに機械的に以前のものを複写していると、かえって間違いを増やす結果になってしまいます。
たとえ同じような案件であっても、項目はその時々で異なりますので、よく確認することが必要です。

 

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支出に係る起案の書き方

支出に係る意思決定は、意思決定の内容が会計規則上の支出の根拠となり、支出負担行為者が確認する必要がありますので、前述の一般的な起案文書に係る注意点に加え、次の項目に注意する必要があります。

 

支出に係る意思決定

事業等実施原議

支出を伴う事業の実施そのものについての起案文書で、支出の内容及び経過を明らかにするものです。
事業の実施について決定するためには、その支出についても確認する必要があるため、事業の実施を決定するための情報として、予算科目や支出額などが必要になります。
なぜなら、決定権者が支出を伴う事業の実施の是非の判断を行うためには、そのような情報も必要だからです。

 

支出決定原議(支出負担行為書)

契約によらない経費を支出する場合は、支出決定原議(支出負担行為書)を起票し、支出負担行為を行います。
支出負担行為とは、事業において具体的な支出を行うこと(金額、予算科目、支出先など)についての意思決定であり、前述した事業等実施原議が決定済みであることが前提になります。

 

支出命令書

イの支出決定に基づき、命令機関である市長(その権限は会計規則等により、各課長等に委任されており、委任された職員を収支命令者といいます。)から出納機関である会計管理者に対して具体的に支出を命令するための処理文書です。
支出に当たって、その支出が適法であるかを会計室が判断するためには、その根拠となる決裁文書その他の関係書類が必要です。

 

※ 事業等実施原議と支出決定原議
事業等実施原議と支出決定原議は、実務的には同時に処理されることがありますが、法的には、別の権限に基づいた別の決定であり、決定権者も別です(結果的に同じになることはあります)。
この二つは、原則として別の起案文書として作成するものであり、同時に処理する場合であっても、両方に予算科目や支出額等の必要事項を記載しなくてはいけません。
ただし、簡易な経費の支出の場合で、決定権者等が同じときは、支出決定原議を起票することによって、事業等実施原議を兼ねることも可能です。

 

事業等実施原議の起案方法

起案の方式

通常の起案文書と同じく、原則上は文書管理システム等で起案を作成し、電子決裁を行います。
事業等実施原議は、あくまで事業を実施することについての決定ですので、新年度予算が配当される前でも起案を行うことができます。

 

起案の内容

事業等実施原議の中には、後から支出決定原議に記載する場合でも、「予算科目」「金額」「経理方法」を記載して決定する必要があります。
支出の伴う事業の実施の是非を判断するためには、予算措置等についての情報も必要だからです。また前記の項目は、審査係による根拠文書の審査が効率的に行えるよう、添付文書の中ではなく、「起案伺い文」の欄に入力します。

 

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支出決定原議の起案方法

起案の方式

財務会計システムにより帳票が出力されますので、特例起案帳票として、紙による決裁を行い、紙文書の保管を行います。
支出決定原議を1件ごとに文書管理システム等に文書登録することは行いません。
支出決定原議の文書番号欄には、その文書を保管すべきフォルダのフォルダ番号を記載します。

 

起案の内容

支出決定原議の中には、事業等実施原議に記載した場合でも「予算科目」「金額」「経理方法」などを具体的に記載します。

 

根拠となる事業等実施原議の送付

支出決定原議及び兼命令書の「根拠文書の文書登録番号」の欄には、その事業等実施原議の起案番号を入力します。
事業等実施原議がすべて電子化されている場合には、事業等実施原議の確認は審査係が文書管理システム等で行いますので、支出決定原議の送付に当たって、事業実施等原議を出力して送付する必要はありません。
ただし、事業等実施原議に紙文書が含まれている場合には、紙の事業等実施原議を審査係に送付します。

 

支出に関する起案の重要性

支出負担行為の権限を持つ職員は、故意又は過失で誤った支出(つまり、誤った根拠に基づく支出、予算の目的と異なる支出など)を行った場合には、その損害を賠償しなければならないと定められています(地方自治法第243条の2第1号)。
支出負担行為の権限者は、支出負担行為を行うに当たっては、その支出が予算執行計画に反しないこと、予算額を超過しないことなどを確認しなければなりません。

 

したがって、支出負担行為を行うためには、事業等実施原議を確認する必要があります。
そして、決定者が必要な事項をきちんと確認したかどうか後から証明できるのは、支出命令書と合わせて送付された事業等実施原議に必要な事項が記入されていたかどうかです。
事業等実施原議に必要事項が書かれていないと、支出負担行為の決定者は、その必要事項を確認したこということを対外的に説明できませんので、万一その支出に問題が生じた場合、損害賠償の責めを負う可能性があります。

 

<地方自治法>
(職員の賠償責任)
第243条の2 会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員、資金前渡を受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又は過失)により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用に係る物品を亡失し、又は損傷したときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。次に掲げる行為をする権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助する職員で普通地方公共団体の規則で指定したものが故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたこと又は怠つたことにより普通地方公共団体に損害を与えたときも、また同様とする。

 

 

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